
防災と地域包括ケアの同時強化で安心の街作り
防災と地域包括ケアは非常に相性の良い考え方で、同時に推進可能だと考えています。地域包括ケアの根幹となるコンセプトは「自宅を中心として30分圏内に漏れと無駄のないサービス(医療介護ボランティア等)を配置すること」です。この自宅の機能に防災を付け加え、地域に避難所や備蓄の確保を入れれば同様のコンセプトに内包可能(上図)です。
2022年に行われた防災シミュレーションに置いて、目黒区で大規模地震が起きた場合、62,000人の避難民が出ることが予測されました。28万人住む目黒区民の4人に1人が避難民となる計算です。また、目黒区の高齢化も進み続け、高齢化率も25%を超えることが確実視されています。
私の理想とする防災を含めた地域包括ケアの進化についてまとめていきたいと思います。
災害に強い自宅と避難所の整備
災害時の目黒区
災害が起きた場合に最も重要な問題が雨風を凌ぐ場所、つまり自宅と避難所の問題です。
災害時に自宅にいられなくなる理由は主に下記の3つです。
①家自体が(半)倒壊してしまっている。
②水電気ガス等が使えなくなる。
③食料品の備蓄が少ない。
そもそも家が災害に強く、水道や電気、ガスなどについても強靭なバックアップシステムが稼働していれば避難を考える必要もありません。
つまり、まずは災害時の避難民予測の62,000人という数字を引き下げることが防災の一つです。目黒区は木造密集地帯が多く、リフォームや建て替えに助成金をつけるなど防災化を推進していくことも必要です。また、集合住宅の建築確認を行う際にも防災レベルの高い住宅であることを条件付けることもできます。
目黒区の避難所問題
次に、避難所の設置も大きな問題です。
現在目黒区には57,000人分の避難所が確保されています。そもそも、5,000人分ほど足りませんし、この57,000人分という数字も見積もりが甘い可能性があります。避難所とは広さが確保されていればよいわけではありません。食料や水、電気、トイレ、防寒グッズなど様々の準備がされていてこその避難所です。
テントなどのプライバシーを守るような対応も必要となります。
目黒区では学校施設などが避難所と指定されていますが、学校だけで物資を備蓄することは不可能で、近隣の倉庫などに分けて備蓄しているといいます。
自治体DXによる医療介護施設計画
あの地域にはやたら整形外科が多いとか、わずか2軒となりに歯医者が並んでいるといった状況を目にして、「なぜこんなに偏っているのか」と疑問に感じた経験がある方も多いのではないでしょうか。これは、医療や介護の施設配置における大きな課題のひとつです。
現在、日本では診療所や介護施設を新たに開設する際、行政に対して一定の書類を提出し、設備の整備や人員配置などの法的基準を満たすことが求められています。しかし一方で、これらの条件さえクリアすれば基本的には誰でも開業できる「自由開業制」が採用されているため、開設の判断は個々の事業者に委ねられており、地域全体の医療・介護バランスを考慮した配置にはなっていないのが実情です。
その結果、特定の診療科や介護サービスがある地域に集中してしまう「偏在」が起こり、反対に本来必要とされている機能が不足している地域も生まれてしまいます。もちろん、自由開業には医療機関同士の競争を促し、サービスの質を高めるという側面もありますが、現在の日本が直面している医師の都市集中や介護職の人手不足といった現実を前にすると、無計画な競争を促すことはもはや許容できない状況です。
自治体主導で行いノウハウを蓄積させる
これからの時代に求められる医療機関や介護施設の整備は、地域の人口動態や高齢者の健康状態、慢性疾患の有無、介護度の分布といったヘルスケアデータをもとに、精密に計画される必要があります。たとえば、どの地域にどの診療科の医療機関が必要か、特別養護老人ホーム(特養)や訪問介護ステーションはどのくらいの数を配置すべきかといった内容を、自治体が主導して明確に数値化し、計画に落とし込むべきです。
加えて、今後は一定の規模以上の医療機関や介護施設の設置については、地域ごとに「総量規制」を設け、過剰な集中を防ぐ一方で、明らかに不足している分野については積極的に情報を発信し、報酬体系を見直すなどの誘導策を用いて、必要な医療・介護機能を地域に呼び込む取り組みが必要です。
こうした制度設計を進めるうえでは、地域の実態を正しく把握するためのデータ収集と、その正確な分析が極めて重要となります。現場のニーズや将来の人口構成を見通した上で、綿密なシミュレーションに基づく施策が求められるのです。
しかし、これらの仕組みを整備するまで悠長に構えている余裕はありません。現実には今この瞬間にも、限られた医療・介護のリソースが高齢化の進行によって急速に失われつつあります。早急な対応こそが、持続可能な地域医療・介護体制を築くための鍵になるのです。
介護に強い住まいづくりを支援
地域包括ケアの中心を担う考えが、できる限り自宅で暮らしていくと言う考え方です。
災害に強い住まいを整備することの重要性については、すでに前述しました。
しかし、住宅の「機能性」という視点で考えると、もうひとつ忘れてはならないのが、将来の介護や介護予防を見据えた住宅設計です。
住宅を建てる世代にとって、自分が将来介護を受ける立場になることを具体的に想像するのは難しいかもしれません。そのため、多くの住宅設計では、介護への配慮が後回しにされてきました。
しかし、実際にはその備えの有無が、老後の生活の質を大きく左右します。
たとえば、段差の少ない床設計や、手すりを後付けしやすい構造。玄関から近い位置に居室を配置する動線設計。トイレや浴室を広くとることで、将来の介助に対応しやすくなる――これらはすべて、介護を見越した住宅設計の一部です。
こうした工夫が施された住宅では、転倒などの事故も減り介護予防にもう役立ちます。そして、例え要介護になっても自宅での生活を続けやすくなります。介護を支える家族の負担も軽減され、結果として公的介護費用の抑制にもつながるのです。
そこで私たちは提案します。
防災と介護に強い住宅(新築・リフォーム)に対して、国と自治体が連携し、抜本的な補助制度を導入し自治体もどのような住まいが有効化ノウハウを蓄積していく必要があります。
また、戸建て住宅だけでなく、分譲・賃貸を問わず集合住宅においても、こうした基準を満たす設計が促進されるよう、法制度や補助金制度を見直す必要があります。
たとえば、建築基準法に高齢者対応構造の推奨を盛り込んだり、固定資産税の軽減措置を設けるなど、インセンティブを多層的に設けるべきです。
すべての人が「一生暮らせる家」に住める社会へ。
防災と介護を両立する住まいづくりは、高齢社会と災害多発国・目黒区にとって最も現実的かつ急務の政策課題です。
災害時にこそ、介護の力を
日本は世界有数の自然災害大国であり、地震・台風・豪雨など、いつどこで大規模災害が発生してもおかしくありません。災害時に被害を受けやすく、またその後の生活再建にも時間がかかるのが、要介護高齢者をはじめとした「災害時要配慮者」です。
こうした方々に対して、私は介護事業者が果たせる役割は今よりもはるかに大きいと考えています。介護施設や事業所には、「災害に強い現場力」があります。
実は頼れる「災害対応力」を持つ介護の現場
まず、特別養護老人ホームや有料老人ホームなど多くの介護施設は、耐震性や非常用電源、水の備蓄など、災害を想定した設備基準をクリアしており、一定規模以下の災害であれば施設としての機能を保ち続けられます。災害時の避難所のように多くの人が集まる場所と比べて、むしろ落ち着いた環境を保てる場合もあります。
また、訪問介護・訪問看護などの在宅系サービスでは、地域の家庭に出向く職員が日常的に活動しており、地域の地理や家庭事情に精通しています。彼らはまさに、災害直後に地域を歩き、安否確認や生活支援を担える貴重な人材です。平時から高齢者や障がい者に接してきた経験は、非常時にも大きなアドバンテージになります。
さらに、ケアマネジャー(介護支援専門員)は、要介護者の状況・連絡先・支援が必要な内容を把握したリストを常に持っています。これは災害時の安否確認や支援対象者の抽出に極めて有効であり、自治体の名簿よりも現場の実情に即したデータです。
それでも、制度の壁が現場を縛っている
こうした「現場力」があるにも関わらず、現在の制度では災害時に十分に活かされていません。
なぜなら、介護サービスの提供には、原則として「要介護認定」が必要であり、支援の開始にはケアプランの作成も求められるからです。認定やケアプランの作成には通常1ヶ月近くを要し、緊急時の支援に必要なスピード感を確保できません。
災害によって家屋が損壊し、家族の介護力が失われた方や、新たに心身の状態が悪化した方が介護を必要とする場面は多くありますが、その都度「制度の枠組み」にとらわれていては、実際の支援が大幅に遅れてしまいます。
また、安否確認や見守りといった活動は制度上の「介護サービス」ではなく、ボランティア的に扱われがちです。職員の使命感に支えられている一方で、継続的な仕組みとして定着していない現状があります。
私の提案――「災害時特別報酬制度」の創設を
こうした制度の隙間を埋めるため、私は次のような制度改革を提案します。
① 要介護認定・ケアプラン策定の一時免除
災害時には、被災者本人と介護事業者の同意・契約のもと、暫定的にサービス提供を可能とし、一定期間は要介護認定やケアプラン作成を免除する仕組みを導入します。
これにより、既存の制度の壁にとらわれず、迅速な支援が可能になります。
② 災害時に限定した「特別報酬」の設定
訪問介護や通所介護などが行う災害対応(緊急訪問・生活支援・施設受け入れ)に対して、通常とは別の災害対応報酬を設けます。特に通所サービスでは、被災者の一時避難先・食事提供・入浴支援の場として活用できます。
③ ケアマネジャーの安否確認・情報収集に報酬を
災害直後にケアマネジャーが行う高齢者・要支援者への安否確認、住環境の状況確認などに報酬を設定することで、迅速な情報収集と支援の連携を促進します。自治体との連携もスムーズになります。
介護を「平時だけのサービス」にしない
これまで、介護は「日常の困りごとを支えるサービス」として制度設計されてきました。しかし、高齢化が進む今、災害時にこそ活躍できる「介護の底力」を制度として生かすべき時です。
私、坂元ゆうきは、介護業界での経験を生かし、災害時にも地域の高齢者や要配慮者を守るための実効性ある仕組みをつくります。介護は、単なる福祉サービスではなく、災害における「地域インフラ」の一つです。
災害時にも介護の力が発揮される社会を、私は目指してまいります。
目黒区介護福祉職囲い込み政策
介護職員不足が全国的に深刻化している問題は、もはや看過できない状況にあります。厚生労働省の試算によると、2040年には約57万人もの介護職員が不足するとされており、介護現場の人手不足は今後ますます深刻化する見込みです。しかし、この数年間で抜本的な改善策が十分に講じられているとは言い難く、現状では技能実習生などの外国人労働者の受け入れに頼る形が中心となっています。これは短期的には一定の効果があるものの、長期的な介護人材の安定確保には課題が残ります。
特に都市部、そして目黒区のような都心部における介護職不足は顕著であり、既に深刻な影響が現れています。目黒区では、利用者が希望する時間帯に訪問介護を受けられないケースや、ショートステイの予約が2ヶ月前からでないと取れないといった実態が報告されており、まさに「介護崩壊」の兆候が見え始めています。このまま職員不足が続けば、高齢者の生活の質は大きく損なわれ、介護サービス自体の持続可能性も危うくなることは明白です。
こうした状況を踏まえ、全国の自治体では独自の取り組みとして介護職員の確保・囲い込みに向けた政策が始まっています。例えば、施設における働き方改革を支援するために、時短勤務の正社員制度や短時間有給休暇の推進、育児休業の取得促進などを補助する取り組みが挙げられます。また、目黒区に住み、目黒区で働く介護職員に対して家賃補助や引越し費用の支援を行い、地域内での定着を促進する施策も有効です。さらに、区内の介護施設への転職を支援するために、職場体験や転職相談の機会を提供し、転職祝い金制度を設けるなど、介護職員が安心して働ける環境づくりを進める必要があります。
結論として、目黒区が今後も高齢化社会に対応し、介護サービスの質を維持していくためには、単に外国人労働者に頼るだけでなく、地域に根差した介護職員の確保・定着策を早急に講じることが不可欠です。介護職員の働き方改革や生活支援を含めた包括的な施策を通じて、介護現場の環境改善と人材確保を同時に進めることで、持続可能な介護体制を構築し、区民が安心して暮らせるまちづくりを目指していくべきです。